千尋を引き取って、早18年の歳月が過ぎた。
ケイト、君から託された小さな命は、君が言った通り美しく育ったよ。
来年の春には、君の祖国のアメリカの大学への留学も決まった。
ホームステイ先には、君の母親の家、つまり君が産まれた育った家だよ。
随分長くかかったが、もうすぐ千尋が会いにくるから、後暫く待っててくれないかい。
友が眠る石碑の前で、強く誓った。
千尋を引き取った後黒川家は、大きく揺れた。
千尋は、私が愛人に産ませた子だと噂が広がったのだ。
本当に馬鹿げた話だ。
ただ黒川家の人間からしてみたら私の話しの方が信じ難い話しだ。
それは充分、私自身が理解している。
ただ時に、真実は、人の想像を遥かに上回るモノなんだ。
私は、周囲の雑音を抑える為、黒川家内で絶対的な存在になる事を決めた。
その為に、非情とも思われる決断を幾つも下した。
雑音が消えた頃には、周りの人間達に畏怖される存在へとなっていた。
元々この黒川の家を取り囲む環境に昔から、嫌悪感を抱いていた私には、丁度良かった。
勿論その間、ケイトの生家ハワード家とコンタクトを取ったが、ハワード家は丁度ケイトの父が亡くなった直後で、親族や会社の役員を含めおいで騒動の真っ最中で、千尋の存在は、逆に厄介だった。
なんせ、ケイトの父親は、ケイトにも莫大な遺産を残していて、ケイトの忘れ形見の千尋にそのままその財産が渡るのを恐れたからだ。
そんな人間の元に千尋を預けるには、あまりにも危険過ぎた。
私は、ケイトの母親と相談の元彼女が成人するまで私の元で育てる事を決めた。