「何故軍人の任期を終えた今でもこんな仕事をしてるんだい?」
私がこの質問を切り出すと、今まで目の前で冗談を言っていた時と目付きが変わり、その瞳には、強い光が宿っていた。
「理由は、女の為かな♪」
先程と変わらずおちゃらけた口調で答えたケイトだが私はケイトの目付きが変わった事を見過ごしてなかった。
「女?それは奥さんのことかい?」
「あぁ…後は千尋の為だな。」
「千尋?」
「悪い悪い。千尋は俺の娘。昼間見ただろ?ありゃ将来アルマに似て綺麗になるぜ!」
ケイトはかなりの親バカで、産まれたばかりの赤子の将来のビジョンを頭に想い浮かべ楽しそうに話す。
そして、出会ってまだ半日も起たない私に自分の夢の話しをしてくれた。
ケイトは、アルマに一目惚れしたが、治療の為に帰国しなければなかった。
帰国する時ケイトはアルマに
「必ず君に逢いに行く。何処にいても。必ず。待っててくれとも言わない。その代わり次出会ったら、俺のデートの誘いを受けて欲しい。」
ケイトの話しを聞くうちに、あの時の自分の記憶が蘇った。
華奈と交わしたあの約束を。
帰国したケイトは、身体は回復したが療養中ずっとアルマとの約束の事を考えていた。
軍役を終えた自分が、再び戦地を訪れる方法は限られている。
今度は自ら志願して、再び軍人として戦地に足を踏み入れる覚悟すらしていた。
そんな彼の元に、千載一遇とも思えるチャンスが舞い込む。
ケイトの父は、元々出版社を営んでいたが、近々長期化していた戦争の記事の特集を組む為、現地に数人の記者とカメラマンを送る事になった。
家族は、皆反対したが、ケイトのアルマへの想いは強く、父を説得し再びこの地に戻ってきた。
「父は優しい人間で、懲役の時も、家業を継ぐ兄の代わりに、ハワード家の犠牲になった俺の事を負い目に思ってて、最後まで反対されたよ。」
「そんな父をどうやって君は、説得したんだい?」
「簡単さ。こう言ったんだ。『僕は、どうやら容姿は母に似ても、性格は貴方似ですっよ。』ってね。」
ケイトの父は、日本人の妻を娶る事を、親族等に酷く反対されたが、周囲の反対の雑音など意に介さず駆け落ちも覚悟の末に結婚に踏み切ったのだと。
終いには、親族の方が頑固な父に折れ今に至る。