華奈との一軒以来、以前にも増して仕事に没頭していた。
そして、親族の薦めである良家の娘の紗耶香と見合いをしそのまま結婚した。
私の心の片隅にはまだ華奈がいたが、黒川家の当主として、子孫を残さなければいけないという責任を優先した。
紗耶香は、良家の娘と言う事で、礼儀作法も滞りなく出来、心の優しい女性だった。
仕事で屋敷を離れる事が多かったが、それでも彼女との新婚生活を大切にしようと出来る限り時間を作って細やかだが幸せな新婚生活を送っていた。
ただ結婚して数年が経ったが私達は子宝に恵まれなかった。
いつの頃からか親族内で良からぬ噂が流れ始める。
黒川家の親族にとって紗耶香は、次期当主を産ませるからこそ価値がある存在だが、その勤めを果たせずにいた紗耶香は、きっとあの広い屋敷で肩身の狭い思いをしていただろう。
私も出来る事なら傍にいてあげたかったが、仕事の都合上屋敷を空ける事が多かった。
そんな紗耶香に追い討ちをかける様に彼女は子宮癌を患う。
そして私の必死の説得の末、彼女は、手術で子宮を摘出した。
勿論病気の事も手術の事も紗耶香の事を考え一部の者を除き伏せていた。
ある晩、仕事を終え、見舞いの為病院を訪れると異様な光景に直面した。
真っ白な衣服が赤に染まり、手首から血を流しながら不気味に笑う紗耶香がいた。
「ふふっ見て貴方。綺麗でしょ?」
異様な光景に身体が硬直した私に語りかける紗耶香の声が静かな病室に響く。
慌ててナースコールのボタンを押して、持っていたハンカチを紗耶香の手首に巻いた。
「可笑しな人。何をしてるの?こんなに綺麗なのに。」
そんな私の行動を嘲笑った。
私の知る紗耶香の面影は無く、ただ壊れた人形の様に不気味に笑みを浮かべる。
ナースコールに気付いたナースが慌てて駆けつけた頃には、私の腕の中で過度の出血による貧血を起こし気絶していた。
手や服に付着した血を洗いながしても、私の不安は拭い取れない。
精神科の医師と相談して、とりあえず精神安定剤の投与と24時間監視を付ける事にしたが治療は難しいと断定された。
子供が出来ない事による重度のストレスと紗耶香を襲った残酷な現実は、彼女を壊すには十分過ぎる理由だろう。