人は罪を犯すと同時に、なんらかのカタチで罰を与えられる。
私は別に宗教に熱心な人ではないが、そう思えて仕方がない。
ただ可笑しな話しだが私に与えられた二つの罰を私は愛して止まない。

昭和○年4月
目の前に広がる異様な好景にここが地獄かの様に私に錯覚させた。
家屋は崩壊し、人々の目には生気が宿っていない。
戦時中、父の勧めるままアメリカに留学していた私は、N県のS市に新しい病院を建てる視察をする為帰国していた。
「麗人、久しぶりだね。」
視察の案内人として黒川家の顧問弁護士の長男で私の同級生の荒木俊彦を付けられた。
俊彦とは、家が親しい付き合いをしていた事もあり仲が良かった。
「あぁ久しぶりだね。君が案内人なら肩の力も抜けるよ。」
「ははっそれは良かった。黒川の御曹司様も大変だね。」

俊彦は、昔から家業を継ぐことよりも、将来教師になる事を目指していた変わり者で、同じく黒川家に縛られて疎ましく思っていた私とは、何かと馬があった。
S市は、原爆の被害を逃れたとは言え、被曝地から避難して来た人で溢れ、その中に被爆者も多く含まれ臨時の野営病院には人が溢れていた。
「想像していたよりもずっと酷いな。」
「あぁ…今の日本は本当に地獄だよ。だから君は、病院を建て。僕は、立派な教員になって1日でも早くこの街に学校を建てて貢献しないといけない。」
自分の隣で目を燃やしながら熱く語る友人を見て、少し後ろめたい気持ちになる。
黒川家がこの地に病院を建てるのは、それは利益を得る為であり、決して俊彦の様に他者の力になりたい等という大義は一欠片も無かったからだ。
俊彦に案内されるまま野営病院の中でも異臭を放つ重度の被災者用の病棟を視察していた。
病院とは、名ばかりで床に無造作に置かれた病人達の姿はそこが死体置場かと錯覚させるぐらい酷かった。
床に寝頃がる病人達は異臭を放ち、不衛生な包帯の間から除く肌は焼けとけておぞましい姿だった。