何秒ぐらい呼び掛けたのだろう?
やがて哀しい音は消えた。
「ははっびっくりした?」
美咲の俺をからかう様な明るい声が聞こえた。
「はぁ?」
「ごめんごめん、つい嘘泣きしちゃった。テヘっ♪」
あまりの状況の急変に俺の脳はまだついていけてない。
「えっ?お前泣いてたんじゃないの?」
「だからぁ~っ嘘泣きだって。」
美咲は飄々と話す。
「継人を騙せたと言う事は、私女優の才能あるかな?」
どうやら俺は、美咲の嘘泣きに騙されたみたいだ。
騙された怒りよりもあいつが泣いてなかった事実が俺を安心させた。
「あぁ~っ心配して損した。」
「ごめんごめん。何か映画の1シーン見たいで場の空気に流されたと言うかさ。ついつい。」
「いやっ!流され過ぎだろっ!」
嘘泣きの言い訳を楽しそうに話す彼女の明るい声が俺を平常心に戻してくれた。
「まっ泣いてなくて良かったよ。寂しがりの上に泣き虫だったらこれから先が思いやられるよ。」
「まっ手のかかる程可愛いと言うしね。」
俺達は、またいつもの様にそんな冗談を言って笑い合った。
電話を切る間際、
「花見楽しみだね♪」
浮かれて話す美咲の声を聞いて俺は、自分が案外心配性なんだと気付き急に恥ずかしくなった。
「じゃあ明日から行かないけど退院する時ぐらい電話しないとお迎え行ってやらないからな。」
照れ隠しに意地悪言うと、俺が照れ隠ししてるのが解ったのか
「はいはい。心配性の継人君にはちゃんとお電話しますからね。」
子供扱いされた。
電話を切った後静かな部屋の中で、一人美咲の事を考えていた。
あいつの変なお願いに対して…
人間は幸福な記憶よりも不幸な記憶の方が長持ちすると思う。
多分それは、不幸な時は、五感がいつもより研ぎ澄まされているからかもしれない。
だから五感を通じて沢山の情報が記憶に刻まれずっと残るんだと思う。
そう考えると美咲の変なお願いも何となく解るかもしれない。
俺に出来る事は、あいつが退院したら一緒に桜見ながら団子でも食べてあいつとの幸せな記憶を1つずつ増やして行く事なんだと思う。
「質より量だな。」
一人で納得して眠りに着いた。
案の定、俺の頭からさっきの美咲の嘘泣きの音が消えないから、
「質より量、質より量…」
頭の中で、呪文の様に唱えた。