あの衝撃の面接から3ヶ月がたっていた。
「恵美花ちゃん。今日も来たよ。」
最近毎日の様に聴く、少し高い男性の声が店内に響く。
「いらっしゃい。キンヤさん。」
来店してきたのは、継人(エセ王子)さんの幼なじみなのキンヤさんだった。
本名は、金本博也。継人さんからは、「キンヤ」と呼ばれていて、私もそれに便乗しているかたちです。
キンヤさんと初めて会ったのは、面接の次の日。
レセプションの準備をしていると、継人さんを尋ねてやって来た。
第一印象は、チワワみたいな小型犬で可愛い。
「あっ君がバイトの恵美花ちゃんだね?ヨロシクっ。」
と挨拶と同時に私にハグして来たのだ!!!
普段なら、初めて会った男性にハグされたら驚いて突飛ばしていたのだろうが、何か子犬が甘えてるみたいでついつい可愛いく思えたのだ。
継人さん曰く
「キンヤは、昔からこうやって自分の可愛いさ武器に女性に取り入るのが上手いから気をつけて。」
だそうだ。
因みに、キンヤさんは、26歳で立派な大人の男性だが、彼の愛くるしい目と独特の可愛い空気がそれを誤認させる。
だから、今の私の癒しの一つになっていた。
「はいっ。どうぞ。」
私は、カウンター席に座るキンヤさんに、子犬にエサを与える感覚でジントニックを出した。
「ありがとう。」
キンヤさんは、美味しそうに私が出したジントニックを飲み始めた。
木製の分厚いカウンターテーブルを挟んで目の前で、エサ(ジントニック)に飛びつくキンヤさんの姿は、殺風景な店内で独り店番をしていた私の心を癒してくれた。
「恵美花ちゃん美味しいよ。また腕を上げたね。」
キンヤさんは、ごちそうさまの代わりにこうやって私を誉めてくれるのだ。
「そりゃ上手になりますよ。ここ1ヶ月近く一人でお店まわしてますから。」
キンヤさんの優しさに甘え思わず愚痴をついた。
そう、私はこの1ヶ月一人でお店をまわしていたのだ。
最初は、継人さんが付きっきりでカクテルの作り方やサイドメニューの調理の仕方等教えてくれて一緒にお店をまわしてたのだが、この1ヶ月継人さんは、私が出勤するなり入れ違いの様にお店を私に任して外出しているのだ。