「あっやっぱりここにいた。」
彼女は、木陰で春の揚々とした温もりに包まれ昼寝をしていた俺を見つけるなり、顔に覆い被せた小説を取り上げた。
彼女の顔を見ると、怒ってるのか心配しているのか解らない表情だ。
「どうした?」
「『どうした?』じゃないわよ。学校終って電話しても出ないから。まさかと思って…」
どうやら彼女の表情は後者の様だった。
「ごめんごめん…やっと春らしい天気になったからさ。たまには、日向ごっこでもしながら読書するつもりがついつい…」
俺は、心配していた彼女をなだめる様に小さな頭を撫でた。
美咲と、付き合ってあっという間に半年が過ぎていた。
その半年間は、本当二人で色んな所に行ったし、色んな話しもした。
俺達は、二人で過ごす今を何よりも大切にしていた。
恥ずかしい話し、来春高校を卒業したら、俺は黒川家を出て美咲と籍を入れるつもりだ。
勿論向こうの父親にも挨拶は、もうすましていた。
美咲の父親は、俺の父が治める病院の外科医を勤めていた。
俺が初めて、美咲の家に遊びに行った時も、夜勤明けで帰って来た時バッタリ遭遇してそのまま美咲の父親に勧められ一緒に昼食を頂いたが、飾り気の無い優しい人で、俺と美咲の事も子供としてではなく一人の人間として接してくれた。
彼女の父親と逢って何となくだが美咲がもつ優しさとか温もりの根元を理解した様な気がした。
そんな人だから、俺は初めて逢った日に、俺達の将来の事を話したのかもしれない。
俺の話しを聞いて少し困ってはいたが
「その気持ちを二人が大切にしていたら私は良いと思うよ。」
優しく話してくれた。
「もうすぐ桜が咲くね。」
彼女は、俺の隣で寝転がって頭上にある桜の蕾を見ながら呟いた。
「あぁ…そしたら二人でお花見だなぁ。」
「うん♪一緒に桜見ようね♪」
俺達は、まだ見ぬ桜の花びらに思いを寄せながら手を繋いだ。
彼女の小さな手から、熱が伝わる。
その熱は、彼女が今俺の隣にこうして一緒にいることを改めて確認させてくれる。
それが俺にとって何よりも幸せなことだった。
俺は、寝転がっている彼女を覆い被せるように身体を重ねキスをした。