「先輩、助けて」
いつもの放課後、千代は教室に入るなり優雪にすがりついた。
「どうした?千代ちゃん」
「こ、これ」
千代はカバンから数学の小テストを出した。
その点数を見て優雪たちは絶句する。
「これ、百点満点中?」
優雪が確認する。
「はい、どうしましょう、次のテストで三十点以下だったら居残りだって」
「まあ、そうだな」
優雪は仕方ないというように言った。
「そんなこと言わないで助けて下さい」
千代は優雪の腕にしがみついた。
かわいい後輩の前で優雪は言った。
「じゃあ、勉強、手伝ってやるか?」
「ありがとうございます」
千代はわらをも巻き添えにするように言った。
「とりあえず、それかして」
優雪は千代のテスト用紙を取り上げた。
「ああ、これか。これならただかけるだけでいいんだ」
優雪はそう言うと一問目の式を作って千代に見せた。
「ええ!これだけなんですか!?じゃあ、このxは?」
「これは答えと同じ。これかけるこれで答えはこれってこと分かった?」
「ええ!そんなことなんですか?」
「千代ちゃん授業聞いてる?」
「聞いてるけど、もっと違うこといろいろと言って」
「肝心なこと流しちゃったんだ。もっと集中してなきゃ」
「はい」
優雪に指導され、千代はそれを頭に押し込んだ。
「やっぱり、私の先生は頼りになります。折り鶴折ってるだけの人じゃないんですね」
「・・・」
優雪は千代の発言にあからさまに嫌な顔をした。
 「俺いちよう千代ちゃんの先輩だよ」
 「でも数学って難しいわよね。私もなかなか百点はとれなくて」
小蝶が言った。
 えっ、百点なんてそんな簡単にとれるものなの?と千代は驚いて小蝶を見た。
 「数学の先生は厳しいからな。とらせてくれないんだよ。俺も最後のあれできなくて今回は95点だった」 
優雪が悔しそうに言う。
 「私なんか94点だよ」
今度は鶴が不満そうに言った。
 (こ、この人たち実はエリートだった!)
千代は意外なことを知った。 
 「ということで千代ちゃんは折り鶴ははしばらく禁止。数学は俺達が次の小テストまで毎日教えてやる。放課後はまっすぐここにくるんだぞ」 
 「えっ、そんなー」
まさかの優雪からの折り鶴禁止命令に千代は肩を落とした。
 それからの約一週間、先輩達の指導に千代は放課後を使われた。

 「先輩、やりました!」
 次の小テストが終わった放課後、千代の50点以上上げたテストの点数を見て優雪は苦笑した。
 「千代ちゃん、いままでやる気なかっただけだったんじゃない」
 「それで、もう一度助けてもらいたいんですけど」
そう言って千代は理科の小テストの紙をカバンから出した。
 「またか」
先輩達のため息が漏れる。
 折り鶴を折る時間はしばらくお預けのようだった。