「マトリョーシカ?」
千代は優雪が机の上に並べている折り鶴を見た。
折り鶴は大きいのから順に少しずつ小さくなっている。
「マトリョーシカじゃない。兄弟の列だ」
優雪が答えた。
「キョーダイ?折り鶴ですよ?」
千代は優雪の言いたいことが分からなくて聞いた。
「折り鶴の兄弟」
優雪は言う。
「・・・」
千代はなんの答えていいのか困った。
「全部男だ。女の列もこれから作る」
ますます分からない。これの何が楽しいのだろう。そんな人形遊びみたいな設定、いるのだろうか?まさか、この歳で人形遊びをしかも折り鶴でやるのだろうか?
「あの、何に使うんですか?」
千代は聞いてみた。
「え?」
優雪は困ったように頭をかく。
「え、その反応は本当に人形遊び?」
「遊んじゃだめ?」
「・・・いえ、いいですよ?」
結構意外だった。優雪のことだから折り鶴は大切にするもので遊ぶなんてとんでもないみたいに言うのかと思った。
よく考えたら教室に飾ってあるのも毎回持ち帰って放課後になったら飾り直しているのだ。意外と大切に保管していない。
「一番大きいのは一番上の兄ちゃん。こいつは人間の十八歳くらいかな」
優雪が設定を千代に説明し始める。
「若いですね。三十くらいに見えます」
千代は突っ込んだ。
「二番目は十四。中学生」
「・・・」
「三番目は十二。社会人だ」
「え、突っ込んでいいですか?」
千代はとうとう口をはさんだ。
「だめだ。千代ちゃんはまだ、この折り鶴の関係を理解するには早すぎる」
優雪は受け入れない。
「はい」
千代は何も言い返さなかった。
そこで優雪が続ける。
「四番目は八歳。小学二年生」
普通だった。
「一番年下がベビー。一歳だ」
「ベビーは何をしてるんですか?」
千代は聞いた。
すると優雪はつまらないこと聞くなといわんばかりに言った。
「ベビーはベビーだ。何もしない」
「はあ、じゃあ、一番上は」
「一番上は弟の面倒を見るんだ」
千代は最後の質問を言った。
「親はいないんですか?」
「・・・」
優雪は口を閉じた。
「え?」
千代が聞き返すと優雪はやっと口を開いた。
「考えてなかった。もっと大きい紙ないかな」
「これ以上大きくするの?」
優雪の折り鶴の世界はやっぱり一般人には理解しずらいらしい。