「優雪先輩」
千代は教室に入ったとたん言った。
「なんで体操着なんですか?みんなも」
教室にはいつもの三人が集まっていたが今日はみんな体操着だ。
「なんでって運動するから」
優雪が当たり前のことのように言う。
「運動部なんですか?」
千代は聞いた。
すると優雪は首をかしげる。
「なんで俺が運動部だと思うの?俺は昔から折り鶴一筋だよ?」
「じゃあ、なんで放課後に体操着来て運動なんですか」
千代には理由がわからなかったの。
「0時間だよ」
優雪が答える。
「0時間?ってなんですか?」
千代は聞き返した。
「折り鶴を折る前の体操。脳の働きをよくするの」
「それ、折り鶴折る前にやって意味あるんですか?」
「調子がよくなるんだ。鶴とか特に。だからやる」
「そうですか。別に私は構わないですけど」
折り鶴になんという気合の入れ方だ。と千代は思った。
「それなら、千代ちゃんも着替えて。スカートじゃできないだろ」
「ええ!私も!?」
聞き返す千代に対して優雪は当たり前だろ?というようにうなずいた。
「俺たちの仲間だから」
仲間。響きはいいが理由になっていない。
「で、その0時間って何やるんですか?」
「校庭の周りを一周する」
千代はうなずいた。
「それから?」
また聞くと優雪は黙った。
しばらくして答える。
「それで終わり」
「え?」
千代は聞き返した。
「ほかはない」
「ええ!?」
心の中でめんどくさいと千代は思ったがまあ、楽しくないこともなさそうだ。
千代はもう何も言わず、体操着を取りに行った。
更衣室に移って体操着に着替えると二年の教室に戻った。
「千代ちゃん来たー。体操着初めて見る!」
また、鶴に抱き付かれた。
「走るぞ」
優雪が教室を飛び出して行った。
鶴がそれに続く。
「助かった」
小さくつぶやいて千代も二人についていった。
校庭に行くと優雪が運動部の使っている真ん中のところを避けて周りの茂みの中をゆっくり走り出した。
鶴は勢いよく走り出した。
「確かに鶴先輩、テーション上がってる」
千代は言った。
「千代ちゃんも走るの好き?」
千代の隣で小蝶が言った。
「私、割と好きで、中学入ったら陸上部入りたいって思ってたんです」
千代は自分が最初に考えた夢を思い出した。
「そうなの!?」
小蝶は驚いた声で言った。
「それが、優雪先輩の折り鶴を見たせいで、叶いませんでした」
「ち、千代ちゃん、無理しなくていいのよ?私たち、千代ちゃんが我慢してるなんて思って」
千代が笑うと小蝶は慌てた。
それに気付いた千代が今度は慌てる。
「そ、そういう意味じゃ。確かに最初は陸上部入りたかった。でも、優雪先輩の折り鶴見たらこっちの方がやりたくなっただけです」
千代は優雪の方を見た。
優雪は相変わらずゆっくり走っている。
鶴はもう半周位している。
「鶴先輩、早!」
千代は驚いた。
「鶴、今日は特に調子いい。千代ちゃんが来てくれるようになったから。最近は前よりもっと楽しそうになったわね」
「え?」
小蝶の言葉に千代はもっと驚いた。

「お前ら、走ってないな」
ぼうっと立っているといつの間にか優雪がもっどてきていた。