とうとう運動会の本番の日。
 時間は開会式の十分ほど前。
 千代は校庭の待機場所に他の生徒たちと一緒に並べた自分の椅子の前に立って校庭のトラックを見回した。
(緊張する)
 千代はトラックから二年生の待機場所の方に目を移した。
 優雪が席についてはちまきを折っているのが見つかった。
 はちまきでさえ折り紙をするのかと千代は感心した。(実際は遊んでいるだけだ)
 鶴はクラスの人らしき女子のグループに囲まれていた。
 よく見ると前に千代を呼び出した怖い先輩も一緒だ。どうやら、鶴は彼女と仲がいいらしい。
 千代は少し不満になりながら今度は小蝶を探した。
 小蝶は他の女の子とおしゃべりをしていた。
 千代は三人を見て少し元気が出てきた。
「花丘さん」
 そこにアユが声をかけてきた。
「頑張ってね」
 アユは応援の言葉をくれる。
「うん。ありがとう」
 千代は元気になって頷いた。

 開会式の時間になり運動会が始まった。
 プログラムは順調に進み千代たちの競技もうまく行った。

 そして、一年生のクラス対抗リレーが始まる時間になった。
 千代はこれに出る。
 緊張しながら移動して自分の位置についた。
 ちなみに第一走者ではなかったので優雪たちに教わったスタンディングはやらなくて良かった。
 まあ、教わったことは特にはなるだろう。
 そしてとうとう、リレーの始まりが告げられた。
 ピストルが鳴って第一走者が走り出した。
 バトンはあっという間に次の走者にわたり、すぐに千代の出番に来た。
 千代は前の走者からバトンをうまく受け取り一生懸命走った。
 コースはあっという間に終わり千代は無事に次の走者にバトンを渡し終えた。
 走り終えるとわあっと歓声が上がった。
 アユが声を上げたのだ。
 優雪たちも嬉しそうに拍手を送っている。
 さりげなく松山もOkサインを出していた。
 千代は無事に走り終えたのだ。
 千代は笑顔を優雪たちに返した。

 リレーは2位だった。
 しかし、クラスメイト達は2位でも十分と喜んでくれた。
 千代はうれしくてクラスメイト達にありがとうと言った。

 こうして、無事に運動会は終わった。
 
 帰りに千代は優雪たちと合流した。
「千代ちゃん、良かった」
 小蝶が一番に褒めてくれる。
「千代ちゃん、おつかれー」
 鶴は千代に抱き着いて喜んでくれた。
「うん。良かった。お疲れさま」
 優雪が言う。
「ありがとうございます。先輩たちのおかげです」
 千代が改まって言うと優雪たちは少し照れくさそうにした。
「そういえば、優雪先輩、競技休んでたけど怪我したんですか?」
 千代は優雪が競技に出なかったことに気づいて気になっていたのだ。
 優雪は千代の問いかけに少し慌てたらしかったが答えた。
「俺、練習出てないから」
「え、怪我したわけではないんですか?」
 千代はますます心配になって聞いた。
「うん。大丈夫だよ。違うから。俺、ミッキー先生に体育するの止められてんだ。ミッキー先生って心配症だから」
 優雪は何でもないよと笑って見せた。
 千代は首を傾げた。
(怪我してるわけではないの?ならいっか)
 多少疑問は残ったが優雪が元気なのが分かり千代はほっとした。