それに、何故だか無性にむしゃくしゃして、思わず責めるような口調になってしまう。


「考えてみたことがあるか?冬の間の、桜の気持ちを」


そいつはしばらくうーん、と考えて、


「あるよ」


とだけ答えた。


考えたことがあるくせに、そんなふうに言えるのか。


「花を咲かせている間は、人々は自分を愛してくれる。だから幸せなんだ。だけど、いざそれら全てが散ってしまうと、もう人々は自分の存在すら忘れてしまう。愛される幸せを知った花は、また、春になり花を咲かせる。そして散る。人々は、また、自分を忘れる。いったいそれのどこが、健気と言える?」


それはもう、なかば八つ当たりだった。


僕の言葉を、ただ静かに聞いていた朝日奈 悠は、閉じていた瞼をゆっくりと開く。


「だからこそ、桜は健気なんだよ」