星月夜


 悟と初めて食事に行ったのは、仕事のことでイラついていた週末の夜。一人事務室で残業している時だった。

 昼間、私より1週間だけ入社の早かった女の先輩が面倒な仕事を押し付けてきた上に、仕上げた仕事に文句まで言ってきた。

「えー、このやり方しちゃう? 私としてはこうしてほしかったんだけど〜。後輩とはいえそこは察しようよ〜」

「気付かなくてすいません……」

 しおらしく謝りつつ、心の中で怒りが爆発した。

 文句言うならはじめからテメエがやれや。自分の仕事人に丸投げするヤツに言われたくない! 自分の仕事しながら処理してやったのにアリガトウもなしかよ。ていうかミスじゃないのにそこまで言われたくない。

 コイツの長い髪、力一杯引っぱってやりたい。

 気分転換できず夜まで気持ちを引きずった。私が代わりにやった仕事は問題ないと上司が言ったことでよけいイライラした。パソコンのキーボードを叩く指先は無意識のうちに攻撃的なものになっていた。

 それを見かけた悟は、いつものように声をかけてきた。

「お疲れ〜!」

「お疲れ様です」

 今はしゃべりたくない。さっさと帰ってくれないかな。親しいながらも1つ年上で仕事の関係者である悟にはやはり気を遣った。

「どうしたの、何かあった?」

「いえ、そんなことは。ちょっと眠くて」

 社外の人とはいえ、うちの会社と取り引きのある会社の人。どこでどう話が広まるか分からないから下手にグチは言えない。

 取り繕っていると、

「飲み行く? パーっとしよ」

「え……!?」

 飲みに誘われた。職場でしか話したことがなかったのに。