星月夜


《そうかな? 普通だよ》

《アタシも映画観たい。今度行こうね》

《いいよ》


 軽くやり取りを交わし、仕事に向かう。

 美羽は3年前に結婚した。旦那さんとは同じ音大で知り合ったそうだ。当分は子供の予定もないと言い、自宅でピアノ教室を開き収入を得ている。生徒もけっこう来るらしく仕事が楽しいと言っていた。

『そのうち子供ほしいなって漠然と思うけど別にいなくてもいいかなぁ。どっちにしろこの仕事はずっと続けていきたい。ピアノに触ってたいから』

 いつしかそう言っていた。

 ピアノが好きという気持ちを失わず、今もまっすぐそう言える美羽はかっこいい。憧れる。

 高校の頃みたいに音楽について語り合うことは今の私にはもうできないけど、美羽を応援する気持ちはきっと一生変わらない。


 その日の昼休み、美羽からLINEのメッセージが来ていた。

《前から気になってたんだけど、月海のツイッターにいる〝星月夜〟って誰?》

 『星月夜』とは、私のツイッターのアカウントをフォローしている謎の人物だ。

 ツイッターを始めてわりとすぐ星月夜さんは私のフォローをしてくれた。

 明らかに本名ではないだろうその名前。

 どんな人なのか気になり、一度星月夜さんのプロフィールを見に行ったけど、その人自身のつぶやきはひとつもなく私以外の人とはつながりもない。変なアカウントだなと思いこっちはフォローしなかった。