〜薄暗い日々〜短編 オムニバス

愛の騒動以来、店では出張サービスがあると、女の子はお客にあらかじめ、ホテルの指定をするようになった。

いつしかその噂がこの界隈で有名になり、ホテル真珠は廃業に追い込まれる事となった。

それでも、この辺りのピンク産業は盛んである。

マキは今日もこの地階の店で男性相手に働いている。

店には相変わらず、お客の数にも負けないくらい、見えざる者が徘徊しに来る。

お客に憑いて来る者、または逆に憑いて行ってしまう者。

そんなある日マスターは、見えざる者を見てしまう事となった。

「はい〜♪いらっしゃいませ〜♪お客様ご指名は〜?」

ある日リュックを背負った一見客がフラリと訪れた。

よく見ると仲の良さそうなカップルで、女性が男性の肩に顔を乗せ、ベタベタしている。

「お客さ〜ん。てんご(冗談)言わんといてや〜。女性同伴はキツイおまっせ〜。」

「女?」

お客は怪訝な顔をした。

「マスター〜!」

マキがマスターの袖を引っ張ると、首を振る。

マキは自らお客をボックス席に案内した。

改めてその後ろ姿を見たマスターは、驚愕する。

カップルだと思っていた女性は、下半身の見えない体で男性の肩に抱きついているのだ。

「マスター。この客が帰ったら、ボックスをこの塩撒いといてや。」

マキは指名料とサービス料をマスターに渡すとそう言った。

マキは自分のバックから数珠を取り出し、腕に巻き付けた。

マスターは外で呼び込みをしている男性従業員を呼び、店内の応対を任せると、気分が悪いと大きなメタボの体を小さくして、女の子の控室に篭った。

やがて、マキが仕事を終え、控室に戻って来ると、マスターは急いで言われた通り塩で清め、その足て近所のお寺に駆け込んだ。

何時間かしてマスターはお札を携えて店に戻ってきた。

従業員に店の入口にお札を張るよう指示をすると、自分は数珠と小冊子を取り出し、何やらゴニョゴニョつぶやいている。

そんな様子を控室にいたマキや女の子は苦笑しながら見ているのだった。


しかし店内では相変わらず、パタパタと走り回る子供の声が聞こえているのだった。