そこが、僕と君の違うところ。
現実を見ない振りをすることが、悪いとは言わない。だが、時にそれが自分自身を傷つけることになる。現実を見ることは自分を傷つけるが、時として自分を救う場合もある。
「なあ、ちょっと消しゴム貸してくれ」
それから数日後、君は珍しく二限と三限の間に来てそう言った。忘れたという君を疑いながら、二個持っていたうちの一つを君へ差し出す。忘れたのならば何故直ぐに言わなかったのかと問えば、君はどこか困ったように笑う。
ずるいと思った、その笑みは。僕は何も言えなくなって、ただ一言そっか、とだけ呟く。うん、と頷いた君は「ありがと」と言の葉を落とし、自分の席へと戻っていく。
妙だ、と思った。何かがおかしい。君はきっと、大事な何かを隠している。
消しゴムは忘れたのではなく取られたのだろうという予想は直ぐについた。それを隠すのも、君が僕に知られたくないから、自分自身が認めたくないからだと思った。
けれど、それだけじゃない。君は多分、他にも何かを隠している。
ちらり、と君の横顔を盗み見る。その横顔は何も語っておらず、僕は小さく吐息を吐く。今のところ、君は僕にそれを言う気はないらしい。
追及しても答えてくれないと悟り、僕は次の授業の準備に戻る。それが終わると小説を取り出し、読み始めた。その間も完全に集中することはせず、君に意識を向けておく。
そうしているうちにその日の授業が終わり、君が教室を出て行くのを僕は追いかけた。ねえ、と呼びかけると君は一度立ち止まり、それから僕を振り向く。向かい合って立った僕たちは、お互いに視線を絡める。
「……どこに行くの」
君の足の向かう方向は、明らかに昇降口ではなかった。問えば君は苦笑いをして俯き、「あーあ」と声を出す。そのまま静かに君を見ていれば、髪の毛を掻き揚げて顔を上げた。
「ばれちゃったか、やっぱり」
「何をするつもり?」
間髪入れず、問いを重ねる。君はくるりと踵を返すと、無言で歩き出す。着いて来い、ということらしい。


