「あの…何でしょうか?」

 鈴音は、男性だったことが残念だったが、数年、親以外に見せていない笑顔を見せてみた。
 その男性は、目を丸くして驚いていたが、笑顔で返してくれた。

「芸能界はご存知ですよね」

 ………………ん?

 鈴音はよくわからなくて、「な、なんですか?」と、答えてしまった。
 別に芸能界を知らないわけではない。
 鈴音は、ただ状況を理解できずにいただけだ。

「な、なんでそんなことを聞くんですか」

 鈴音は思いきって、話しかけてきた男性にきいた。
 すると、男性はこう答えた。

「あなたは、俳優の素質があるかもしれないんで、声をかけみました」

 その男性の話によると、自分は父が経営している芸能事務所の助っ人で、最近、事務所に若手の俳優がいないから父に、「若手の素質がありそうな男女をスカウトしてほしい」と、頼まれたそうだ。