氷上のプリンセスは




屋上にある僅かな日陰を探して並んで座ると、先に口を開いたのはアルだった。


「昨日抱きしめたことは謝らないよ。だってキミはリリーでしょ?」


私をまっすぐ見つめるその目は自信満々。相変わらず綺麗な瞳をしている。


そしてその瞳が逸らされることは無くて、少し逡巡すると腹をくくった。

アルが人をまっすぐ見つめる時、それは絶対の自信かあって、折れてくれないことを私は知っているから。


「……はぁ。なんで日本に来たのよ?」


ため息交じり私が問いかけると、パァっとアルの表情が一変し、くしゃりと泣き笑いのような笑みを浮かべて抱きしめてきた。


「やっぱり…ずっと探してたんだ。
いきなりペアを解消して君が居なくなってからずっとね。」


離して欲しい、という意味を込めてグッと彼の胸板を押すけれど、少しも揺らぐことがなかった。

昔は私と同じくらいの身長で、力もこんなに強くなかったのに…

それだけ私達も成長し、否応なく彼が男であることを意識させられる。


「…っごめん。ホント、離して欲しい。
昨日見たく逃げない。話するから。」


「……絶対逃げないでね?」


心配そうな声と共にゆっくりと私を抱いていた腕を緩めてくれた。


「あのさ。どうって私がここにいるって知ったの?名前も国籍も違うんだよ?」


私の両親は、父親がアメリカ人、母親が日本とフランスのクォーターで、伊藤という性は母親の旧姓なのだ。

父親は元スケート選手で現在はコーチとして活動しており、その関係でアメリカで生まれたため、私の国籍は元々アメリカ国籍。


「リリーのお父さんだよ」

「……は?パパから聞いたの!?」

「そうだよ。」


あんっっっだけアルにだけは何があっても言うなって言ったのに!!

何考えてんのよ!!


「リリーが僕とペアを解消したのが小学校5年生のとき。その後すぐにキミは転向してしまった。後からリリーのお父さんが仕事の都合でアメリカを離れたって話は聞いたから大会で会えるような気もしてたし何も言わなで行ったことには腹が立ったけどそんなに気にしなかった。
実際、大会で会えたしね。
けど、今までとは雰囲気が違ってて心配になった。そしたら2年後、キミは一切の大会に出なくなった。

僕はその理由が知りたい。
なんで僕に何も言わなかった?そしてどうして、名前を変えて日本にいるの?一体何が君を変えてしまったの?」


やっぱり気になるよね…
私がアルの立場でも同じことを思うだろう。というか、きっと怒り狂ってると思う。私も彼も「親友」だったんだから。


「……長くなるよ?」


「それでもいいよ。全部、教えて。」


何から話すべきだろう。

私もホントは話さなくては行けないことくらいわかってた。けど、優しい彼のことだから、きっと自分を責めるんじゃないかと思うと辛かった。

悪いのは私だから。