氷上のプリンセスは




「……それで、そのあとどうなったの?」


黙って私の話を聞いていたアルが恐る恐ると言った感じで聞いてきた。


私は1度大きく息を吸って、ふぅっと肺に入った空気を全て吐き出す。


「………レイプ、された。」



「…っ!?」



私の言葉に、彼は目を見開いた。

そうだよね。

普通の人ならそういう反応が正常だと思うよ。


「最後までされてないから、大丈夫。」


「そ…なの、か…?」


私はこくりと頷いた。


そう。


最後まではされてない。



けど代わりに、犠牲になったものは沢山ある。



ブチリと引きちぎられた制服のブラウスとはじけ飛んだボタン。


ずり上げられたブラジャー。



太ももを触る手。



首筋を這う舌。



胸を揉みしだく指。




どれもこれも気持ち悪くて


怖くて…



「暴れた。あちこち殴られて、怖くて震える体を無理やり動かして、手は押さえつけられてたけどなんとか足は動いたからあちこち蹴り上げた。


そしたらね、近くにあった荷物なんかを置いておく背の高い台を思い切り蹴りあげることができたの。


おかげで最後までされることはなかった。だけど幸か不幸か、運悪くその台は私の左膝に直撃した。


精神的なところもあったけど、怪我も相当なものだったからスケートどころじゃなくなってしまったの。

それでしばらく入院した後、私は日本に来て日本国籍をとって帰化した。だから名前も違うの。

これがあなたの知らない私にあった出来事の全て。満足してもらえた?」


チラリと横を向けば、彼の顔を見る間もなくスッと伸びてきた腕に捕まってまた抱きしめられた。


ジタバタともがくけど、やっぱり私の力じゃかなわない。


でも、不思議と嫌ではなかった。


むしろ心地いいくらい。


「……ごめん。僕とペアを組んだ時点で君がいじめられてると気づけばこんなことにはならなかった。」


ほら。

思ってたとおりあなたは自分を責める。


違う。


違うの。


悪いのは全部弱い私。



「そうやって、きっとアルは自分を攻めると思った。だから何も言わずにアメリカを出たの。

ペアの解消も、いきなりらの引越しも、黙ってやってごめんなさい。」


彼の制服の裾をギュッと握りしめ、自分の額を彼の肩口につけて呟いた。


まさか自分を探してくれているなんて思いもしなかったけれど、それなら最初からちゃんと話すべきだったと今なら思う。

そうすれば、もしかしたら今のような生活を送っていなかったかもしれない。


「私ね、人間不信気味なの。
男の人も女の人も、誰も信じられない。」


「怖かったりは、しない、の?
だって、無理やりされそうになったわけなんだし…」


「半年くらい、ダメだった。
けど男の人以上に女の人の方が私は怖い。友達だと思って仲良くしていても、裏では何を考えているかわからない。」


裏切られた?

それとも最初から友達ではなかった?


あの日、私に体育館に行くように言った友人は普段とても私を心配してくれていた。

物がなくなれば一緒に探してくれて、

1人だと何かあった時に大変だからと言っていつも一緒に行動してくれた。


それなのに、

彼女はあの日、

男達に襲われる私を見て笑った。

"ムカつく"

と歪んだ顔で言い捨てた。


「だからね、友達を作るのはやめたの。
裏切られるくらいなら、最初からいないほうがいい。」