外が白み始めたころ、菜々は濱田の腕の中でスヤスヤ寝息を立てていた。

濱田は、そんな菜々を感慨深く眺めていた。


ちょっとした些細な行き違いで、離れたこの数年間。

初めの頃は菜々にイラついて、そっちがその気ならって意地を張ってた。

赴任先では、ある程度喋れると思っていた言語が、というか、発音がよくなくて伝わらない。
そんなストレスからか、濱田は日本人が比較的多い店に通うようになった。
そこで何人かの女と情事を重ねたが、心の穴は埋まらなかった。




瑠璃の出産の知らせを受けて、気晴らしに一時帰国した時、オフィス街で菜々らしき姿を目にした。


トクン…
自分の胸が騒つくのを感じた。


あれから定期的に瑠璃から情報を得ていたが、時折男の影が見え隠れした時は仕事を投げ出して日本へ、菜々の元へ駆けつけて、こいつは俺のモノだって言ってやりたい衝動に駆らたものだ。

『大丈夫、菜々はまだ濱田くんの事忘れてない』

瑠璃は何故か自信ありげにそう言って濱田を励ました。

その根拠は分からないが、今、自分の腕の中に、逢いたくて触れたくて堪らなかった菜々が居る、これは事実なんだと、菜々に触れて実感する。