鏡を見ながら追想する。


ん?

鏡の横の磨りガラスに薄っすら映る影。

ここは確か歯ブラシ立だった筈、これも何となく見覚えがある。

菜々は、そこをゆっくり開く。


っっっ!!!


そこは記憶の通り歯ブラシ立で、しかし、菜々の目を疑ったのは昔大好きだった雑貨屋さんに置かれていた独特の形をした真新しい歯ブラシが、濱田が毎日使っているであろう歯ブラシの隣に鎮座している光景だった。

思わず口を両手で押さえ絶句する。

何なの?この家。


菜々は弾かれる様にキッチンへと向かう。

対面式のキッチンの背に設置された食器棚、その一角に見覚えのあるお茶碗や湯呑み等が当たり前の様に並べてある。


フラフラと寝室に戻り、ベッドに腰掛ける。


何なの?何であの時この部屋に置いて行った物、処分もせず、しかも片付ける事なく置いてあるの?

菜々は理解し難い濱田を思った。




「ごめん、遅くなった、案外この時間でも人居るのな。恥ずかしくって人が少なくなるの待ってたら遅くなっちゃった」

コンビニから濱田が戻った。


「拭き取るタイプと洗うやつ、ふたつ買って来たけど、どっち使う?」

「………」

「菜々?」

返事をしない菜々を不思議に思い、濱田がベッドに近寄って菜々の隣に座ろうする。

「何なの?」
「えっ?」

「何で?何で私パジャマ着てるの?」
「えっ?あっあぁ、それは…
スーツシワになるからって、菜々がスーツ脱ぎ出して…だから…」

えっ?服自分で脱いだの?

「俺の服でも良かったんだけど、我慢する自信無かったから…」

自分で服脱ぐとか、それも男性の前で、あり得ない!