卒業式には参加しなかった。
いや、出来なかった。
インフルエンザにかかり、外出禁止になったから……
菜々にとっては不幸中の幸いというか、堂々と式への不参加を表明できる訳だ。


母からは焦るといい事は無いからと、就職する事を急かされた事は一度も無かった。

だからか、その後も企業エントリーと履歴書書きだけは続けた。


そんなある日、携帯が鳴る。

『一度は採用を見送った当社ではありますが、もし、まだ当社での勤務を望んで頂けるのなら、前向きに検討して頂けないでしょうか?』

広告代理店からの、事実上採用の連絡だった。


焦るといい事は無いから…
母の言葉を思い出し、即答はせず、再度企業訪問をし、その上で決める事を伝え、後日就職先が決まった。

入社式10日前の滑り込みだった。


当時は聞く勇気が無かったが、後日談として、『とにかく顔色が著しく悪かった』らしく、到底この仕事をこなせる体力があるとは思えず、合否の否となり、当初の内定者は、その後連絡が取れなくなり、暫くして辞退する旨のメールが人事のPCに届いた。

「お前は残り福だ!」

今だから笑える話。