『え〜っと、白鳥菜々さん?』

電話に出ると、探り探りに様子を伺う相手に、怪訝な声色に変わる。

「そうですが、あの、どちらの佐久間様でしょうか」


『やった、マジお前か!久しぶりだなっ。
俺だよ俺、高校ん時の同級、佐久間だよ!』


急にテンションが上がる受話器の向こうに、菜々もようやくその人物が、高校3年生の時、委員長をしていた佐久間だと気付いた。


「えっ?なんでここがわかったの?」

菜々は、自身の鼓動の高鳴りに少しだけ動揺した。


『実家、出たんだって?』

「………」

『同窓会のハガキ、返送されてきてさぁ、連絡取れてないの白鳥だけ…「用件は何?」

何故だかイライラして、佐久間の言葉を遮った。


『……忙しい時に悪かったな。
用件は急で悪いんだけど、今日6時30分から地元の居酒屋、えっとひょうたんで同窓会。担任の田原っちの、定年のお疲れ様会も兼ねてるから全員集合。ぜぇえったいに出席する事』


じゃあなと佐久間は電話を切ったが、菜々は通話の終えた受話器を左耳に当てたまま、佐久間の言葉を反芻した。


連絡取れてなかったのは私だけ?

でもって、全員集合?


心ここに在らずといった表情で受話器を戻し、大きく息を吐く。


「白鳥先輩、ちょっといいですか?」

小走りに一年生が駆け寄ってくる。

これでいいかと、お湯を注ぐ前のカップの確認を迫る。







あの日、菜々が人生の岐路に立っていたあの日、周りとの一切の連絡を絶った。

あの時から、6年の月日が流れている。


どうしよう…
菜々は、忘れかけていたあの日を思い出し、激しく動揺した。