「起きた?」

姉様が私の頬を優しくなでながら問いかけてくる。

「…おはよう姉様…。」

寝ぼけまなこで返事をする私を見て、姉様はクスリと笑う。

「早く支度しなさい。」

まだ眠っていたい。

けれども、置いていくわよの声に慌てて跳ね起き、鏡の前に向かう。

姉様達にもらった化粧道具、真珠や貝殻を砕いた粉や、サンゴの紅、鯨の骨から取った油、イカ墨等を不慣れながらも丁寧に顔にぬっていく。

鯨の油を塗ったあと、白くキラキラ光る粉をはたく。

弧を描くように眉に墨を描き、紅を頬に、唇に。

「まだまだ、改良の余地があるわねえ。」

姉様が私の後ろに立ち、細長い指で髪を梳いてくれる。

私の髪を編み込む姉様に、髪留めを渡す。

遠い南の島で獲れる熱帯魚という魚の鱗で作られた髪留め。

光の加減で赤や青や黄色に緑、と何色にも輝くお気に入りの髪留め。

最近はどこに出かけるにもこれを付けていく。

姉様は慣れた手つきで髪留めをつけてくれた。

一粒真珠のネックレスを付けて、出来上がり。

「さあ、行きましょう。」

姉様が微笑みながら私に手を伸ばす。

子どもの頃の様に手を引かれて住み家を後にする。

今日は姉様と買い物をする日。

掘り出し物は、あるのかしら。