一体いつから知られていたのか。

何人もの人間達に捕らえられそうになり、必死に走り続け、私は近くの川に逃げ込んだ。

勢いよく飛び込んだ衝撃と冷たい川水に鱗の何枚かが剥がれ落ちる。

何か後方で怒鳴りつける声が聞こえてくる。

川沿いには人間達の住処があり、何人もの人間達が私を見て、驚いた顔をする。

私達は人間に本来の姿を知られてはいけない生き物だ。

人里に向かう時は必ず、ヒラヒラとした尾ヒレや水かき等の魚の部分を見られないようにしなくてはならない。

それは遥か昔から続く、仲間達の悲劇からなる自己防衛の手段。

けれど今はそんなことに構っている余裕などなく、ただ全力で川を下り続ける。

捕まったらどうなるのか。

姉様達から聞いた悲哀と残虐さの絡まり合う話を思い出す。

繰り返し、繰り返し、聞かされ、恐怖と嫌悪に震え、怒りと悲しみに涙した幼い自分を思い出す。

川の水に塩気が混じる。

あと、もう少し、あともう少しで、海に出られる。

海に出られさえすれば逃げ切れる。

そう安堵した瞬間、私の目の前に鉄でできた柵が現れた。

反射的に体の向きを変え、速度を落とすが体ごとぶつかってしまう。

鉄の柵にぶつかった拍子に鱗が割れ、剥がれる。

細い柵の間に腕を通すも体は通らない。

何処かに通れる隙間が無いのか探してみるも見つからない。

水面を見上げる。

鉄の柵は水上に架かる色のついた石の橋に突き刺さっている。

躍起になり鉄の柵を抜こうと力を込めるが、上は石の橋、下は地中深くに突き刺さるそれは、とても抜けそうにない。

「」

怒りと焦りと絶望に声をあげる。

大勢の足音が川の水を通し、振動となり伝わってくる。

もう少しなのに、もう少しで海に着くのに。

鉄柵の向こう側に手を伸ばす。

川の水が私を通り過ぎて、海に流れる。

叫び続ける声さえも私を置いて流れていく。