「まぁ……期待したのは、お互い様だけどな」


「…………は、い?」


「お前って、しっかりしてるように見せて、時々かなり危なっかしいこと、いい加減自覚しとけよ」


「不破、さん……?」



続けられた、意味深な言葉と同時。

エレベーターの壁に縫い付けられていた身体が、ゆっくりと解放された。


それに、何故かほんの少しの寂しさを感じた私は、本当にどうかしてる。



「あー……、無駄に疲れた」



そんな、気の抜けた言葉と同時に。

チーン!なんていう、あまりにタイミングの良すぎる音を立てて開いたエレベーターの扉。



「ふわ、さん、あの」

「……さーて、誰かさんのせいで遅れた仕事するか」



い、今のは、何…………

呆然と固まる私を置き去りに、当の本人はたった今の出来事を忘れてしまったかの如く気怠げに、エレベーターを降りてしまう。


その、見慣れたはずの後ろ姿を見つめながら。

私は、名前を呼ぶ以外に声を発することができなくて。