「改めて、もう一度言います。日下部さんとお会い出来て、嬉しいです」
私を真っ直ぐに見つめる辰野さんの目には男の色が滲んでいて、思わずゴクリと喉が鳴る。
けれど、与えられた衝撃と動揺を精一杯押し込めて、私は辰野さんから見えない位置で拳を握ると、ゆっくりと口を開いた。
「……ありがとうございます。私も、辰野さんとお会い出来て、嬉しいです」
「それは、どちらの意味でですか?」
「さぁ……どちらでしょうか。辰野さんの思う方に取っていただいて大丈夫ですよ?」
言いながら、今日一番の笑みを返せば辰野さんが「イジワルだなぁ」と楽しそうに笑う。
そんな辰野さんに、それ以上の返事を返すこともせず。ううん、返すことも─── できずに。
私は、「また、ご連絡させて頂きます」とだけ言葉を渡すと、熱くなった耳を長い髪に隠して足早にビルを後にした。



