「辰野(たつの)さんとお仕事できて、とても光栄です。今回は色々とお力をお借りすることになるかと思いますが、よろしくお願い致します」


「日下部さんになら、いくらでも尽力しますよ。困ったことがあれば、なんでも言ってください」


「ありがとうございます、とても助かります」



柔らかなその笑顔を受け取りながらニコリと微笑み返せば、カジタ商事の営業部エース、辰野さんは長い指を添えて机の上に企画書を滑らせた。


その拍子にスーツの袖口から品の良い時計が顔を出して、したたかにこちらを睨む。



「では、早速ですがカフェについてのお話をさせてください。今回、ウチとしては " お客様が心地良く休める場所 " と銘打って、なるべく広くスペースを確保したいと考えていて……」



スラスラと、企画書の導入となる部分を読み上げる彼の声は、とても聞き取りやすく丁寧だ。


辰野さんは年齢は不破さんと同じだけれど、企画もできる営業さんとして、カジタ商事の中でも仕事のできる男だと評価が高い……らしい。


以前、不破さんを通して受けた仕事で何度かメールのやり取りをした時にもその片鱗は感じたし、現にウチの社内でも辰野さんの名前はよく耳にする。