「─── 不破さん!」



月曜の夜、駅のホーム。

見渡せば、疲れ切ったサラリーマンばかりで色気も何もあったものじゃない。


その中でも、一際光る容姿をした彼は、私の声に驚いたようにこちらを見た。


……ホント、見た目だけは極上ですね、不破さんは。


心の中で、お決まりの悪態をつきながら、そんな彼に向かって右手を真っ直ぐに挙げた私は、息を吸い込み口を開く。



「今日も、ありがとうございました!」

「─── 、」

「また明日です!」



そう言って笑顔を見せれば、いつも余裕たっぷりな不破さんが破顔して……不本意にも心臓が甘く高鳴った。



「まぁ、フォローは任せろ」



鳴り響くアナウンス。

続いて駅のホームに滑り込んだ電車の音に掻き消され、不破さんの声が私の耳に届くことはなかったけれど。


それでも確かにそう言っただろう不破さんは、ヒラヒラと左手を振ってから、颯爽と電車の中へと消えていった。