* * *
「日下部ちゃん、最初から飛ばし過ぎないようにな〜! 不破も、あんまり無理させんなよ」
日下部 蘭が入社して一ヶ月。案の定、彼女のデスクの上は資料やプリントで埋め尽くされた。
有り難いことに、俺のところには連日ひっきりなしに仕事が入ってくる。
そうなると部下である彼女の元にも俺から仕事が流れ、自然と帰る時刻も遅くなった。
「日下部、あんまり無理しないで帰れるタイミングで帰れよ。カニさんの言うとおり、最初から飛ばしてると保たないぞ」
22時、隣でPCと睨めっこをしている彼女に声を掛ければ、今日も相変わらず整い過ぎた顔がこちらを向いた。
大きな目に、長い睫毛。いっそ、華やかなモデルという道も選べただろうに、何故デザイナーという道を選んだのか不思議に思うほど。
「でも、不破さんはまだ残るんですよね? それなら私も残ります。だって、仕事もまだたくさんあるし」
「あのな、俺に合わせてたらキリがないぞ。とりあえず、今日やれるだけのところまでやったら帰れよ。そうしないと、本当にしんどくなるぞ」
次から次へと終わりなく入ってくる仕事。
新規の仕事だけではなく、手元にある仕事の修正に継ぐ修正や、締め切り間近の急ぎの仕事までキリがない。
デザイナーは体力勝負だと、学生の頃に講師から聞かされたとおりの今がある。
平日は特に自分のプライベートの時間はなくて、定時通りに終わるサラリーマンの友人とも仕事終わりに飲みに行くなんて不可能に近かった。



