……好き。私は、この人が好きだ。
上司としても、一人の男性としても、私はこの人が好きで堪らない。
「ってことで、もういい加減黙れよ」
「ま、まだ待ってください……!」
「……嘘だろ、お前」
「だ、だって私……まだ、さっきの返事、してません」
それはもう苦し紛れの言い訳に過ぎず、さすがに呆れた様子の彼だったけれど、私を組み敷いたまま素直に言葉の続きを待ってくれた。
返事なんて、一つしかないのに。寧ろ、今の状況で返事も何もないとわかっているけれど。
その上それを口にしてしまえば、彼を煽るだけだということも。
「ま、前にも言いましたけど……私、料理のセンスとかゼロだし、すぐにお鍋とか焦がします」
「……前にも言ったけど、そこそこ俺も料理できるし、なるようになるだろ」
「そ、それと! 私は理想がすごく高いんです! 仕事ができて優しくて、私より背が高くて、浮気しなくて。ギャンブルしなくて、基本的に価値観が合って……ある程度ユーモアがあって、普通にカッコ良くて、やっぱり仕事ができて………何より、」
「何より?」
「私の仕事に理解のある人じゃないと、結婚できません……」
本当に、自分で自分を殴りたくなる。
今この場面で意地を張り、自分の夢物語のような理想を口にするなんて、相手からすれば馬鹿馬鹿しいことこの上ないだろう。
けれど、視線の先の彼は、少しも動じることなく口角を上げて笑うんだ。
いつも通り、余裕を浮かべて不敵に笑う。
同時に私たちの距離は近付いて、反射的にギュッと瞼を閉じた瞬間、そっと、額にキスが落とされた。



