苦笑いを零してからギアを入れ、アクセルを踏み込んだ不破さんは、そのまま駐車場をあとにした。

例え友達でも、自分の彼女にちょっかいを出されて、『からかっていた』で済むものなんだろうか。

それとも、それだけ不破さんと辰野さんの関係が深い絆のようなもので結ばれているとか?

……もしくは、私は絶対に自分を選ぶという自負でもあったか。



「……後者のような気がする」

「コウシャ?」

「いえ……なんでもないです。それより何より、もう秘密にしてること、ないですか?」

「うん?」

「辰野さんがネタにするような、私に言ってないこととか……他にはないですか?」



今、車がどこに向かっているのか。それを確認するより先にそんなことを聞く私も、大概面倒くさい女だと思う。

けれど口を尖らせた私を見て、どこか楽しそうに笑った不破さんはやっぱり余裕たっぷりで、なんとなくさっきから気に食わない。



「前に、お前と二人で行ったカフェ覚えてるか?」

「あの、素敵なマダムのやってるカフェのことですか?」

「そう。あのカフェな、アイツの実家」

「アイツって……」

「 " 辰野さん " の実家ってこと。で、マダムはアイツの母親な」



……まさか。

驚きすぎて声が出なかった。

あの時確かに不破さんは、あのカフェは " ガキの頃からのツレのお袋さんが趣味でやってる店 " なんてことを言っていたけれど。

ツレというのが辰野さんのことを言っていて、あのマダムが辰野さんのお母さんだなんて思いもしなかった。

私は不破さんと辰野さんとの関係を知らなかったのだから、当然と言えば当然だけれど。

そういえば……マダムも、" トモキ " という名前を口にしていた気もする。