「改めて、あの時は申し訳ありませんでした。それと、今日まで尽力してくださり本当にありがとうございました」



言いながら頭を下げて、辰野さんに微笑んだ。



「…………やっぱり欲しいなぁ、日下部さん」



そうすれば、ぽつり、と。そう零した辰野さんが、困ったように笑いながら私を見る。

それをキョトンと見つめれば、突然、肩に乱暴に腕が廻されて、強く後ろに抱き留められた。

振り向けば、酷く不機嫌そうに辰野さんを睨む不破さんがいて、大袈裟に胸が鳴る。



「やらねーよ、コイツだけは。他を当たれ」

「ふ、不破さん!?」

「ねぇ、日下部さん。こんなのより俺にしない? 俺の方が、たくさん可愛がってあげられるよ」

「ふざけんな。仕事以外で俺の女に触ったら、もう二度と仕事でも近付けさせねぇからな。もう一回、本社から関西に飛んどけ」



公の場で堂々と、不破さんがそんなことを言い出すものだから身体は熱を持たずにはいられなかった。

……何、これ。一体なんなの、本当に。なんか色々、照れてしまう。



「ハハッ。ウソウソ。なんか、こんなタイガを見られるのって本当に貴重というか初めてだから面白くて。ついつい、ちょっかい出したくなるんだよね」

「あのなぁ……」

「今までごめんね、日下部さん。これからは……というか、これからも仕事相手として、どうぞよろしく。あ、でも、もしもタイガが嫌になったら、いつでも僕のところに来てくださいね?」

「……蘭、帰るぞ」



─── 辰野さんが見事なリップサービスでウインクまでくれた瞬間、今度は強く手を引かれた。

成されるがまま歩き出すと、私たちの背後でヒラヒラと手を振る辰野さんの表情が、少しだけ寂しそうに見えたのは私の気のせいではない気がする。