そこまで言って、辰野さんへと笑みを向ければ、私たちの前で足を止めた彼─── 不破さんが、どこか不機嫌に私のことを見下ろした。
「不破さん、お疲れ様です。今日は休日なのに、どうしたんですか?」
「どうした、じゃねぇだろ。さっきお前にメール入れたんだけど」
「すみません、仕事中なので確認できていませんでした」
ニッコリと微笑めば、不破さんは訝しげに目を細めて私を見つめる。
今は、その視線すら心地が良い。
不破さんが纏う煙草の苦い香りを感じた瞬間、言いようのない安心感に胸が包まれた。
知らぬ間に私は、餌付けならぬ香付けをされてしまっていたらしい。
大好きなコーヒーの香りや、誰からも好まれる爽やかな香りよりも、不破さんの纏う煙草の香りが一番落ち着くなんて本当にどうかしている。
「せっかく、お前の大仕事の成果を見に来てやったんだけどなぁ」
「ありがとうございます。午後一で、カニさんとサルさんも来てくれてました」
「そういえば、家族連れで顔出すって言ってたな」
「カニさんの娘さん、すごく可愛かったです。カニさんが溺愛する理由も納得しました」
「ハァ……結局、日下部さんには少しも靡いて貰えなかったか」



