「日下部さん?」
「……別に、不破が私に隠したいなら隠し続けてくれてもいいです」
仕事のことを考えながら返答するのは失礼にあたるかもしれない。だけど、どうしてこうも辰野さんが食い下がるのか、私にはよくわからなかった。
その不破さんの話というのは、そんなにも面白いことなのだろうか。だとしたらやっぱり、興味はあるけれど。
「彼が敢えて隠していることを、わざわざ聞き出そうとは思わないので」
「え……でも、そういうのって普通は知りたいものじゃないですか? っていうか、この先長く付き合うことを視野に入れるのなら、知らなきゃいけないこともありますよね」
「辰野さんの仰る通り、できれば知りたいとも思いますよ? だけど、もしも辰野さんが言うその面白い話というのが、不破が敢えて私に言わない話なのだとすれば─── 」
視線の先。こちらへと真っ直ぐに歩いてくる姿を見つけて、私は静かに微笑んだ。
スラリと高い背、嫌味なほど長い足。
黒いジャケットを羽織り人混みの中を歩いているだけなのに、それがやけに絵になるから不思議だ。
「彼が、私に言わないのなら。それは、きっと、私の為を思って黙ってくれていることなのだと思います」
「…………っ」
「私は不破さんを、信じているので」



