「お前、さっき俺に " 乙女心を無視するな " みたいなこと言ってなかった?」

「……すみません。でも、" 善は急げ " というので」

「お前の場合、急ぎ過ぎて躓いたばかりだけどな」

「う…………。でも! 今度は、そうはならないように頑張るって決めたんです! 同じ失敗は繰り返しません!」



今までの穏やかな時間を壊す発言をした私を前に、不破さんは一瞬呆れたような顔をしたけれど。



「しょうがねぇなぁ……オフィスまで送ってってやるよ。その代わり、月曜には出来上がったデザイン、俺に一番に見せろよ」

「はい……!」



すぐに楽しそうに笑うと、テーブルの隅に置かれた手描きの伝票を持って席を立った。



「あ……私が払います! 今日は、私の用事に付き合わせてしまったようなものなので……」



けれど、その背中を追い掛けるように声を掛ければ視線だけで振り向いた不破さんは優しく目を細める。



「……言ったろ。俺が会いたかったから、会いに来たんだって」



吹き抜ける風に攫われた、優しい声。

晴れやかな空。どこまでも続く海。風の音。

開放的なその場所で、ここに来た時のようにドキドキと胸を高鳴らせた私は最高の激励の言葉まで貰い、等々素直に頬を染めた。