イジワル上司に焦らされてます

 


「久しぶり。元気でした?」

「もちろん、この通りよぉ。不破くんがあんまりにも顔出してくれないから、トモキとまた喧嘩でもしてるのかと思ったわ。あの子も仕事が忙しいって全然顔見せてくれなくて〜。……というか、こんなところで立ち話もなんだし、中に入って! 今日はね、アップルパイを焼いてあるのよ!」



不破さんを前に満面の笑みを浮かべながらマシンガンの如くそこまで言ったマダムは、エプロンと同じ柄のスリッパを二つ私たちの前に並べてくれた。

それに足を入れ、促されるまま左隣りの扉を開ける。

すると目の前にはこの家の外観と同じで、まるで童話の世界に入り込んだような素敵な空間が視界いっぱいに広がって……今度こそ感嘆の声が零れた。



「素敵……!」



部屋の隅には、レンガ造りの暖炉。

不規則に並べられた席は全てソファー席で、どれもがアンティーク調で統一されていた。

壁半分は床から天井まで本棚になっていて、そこかしこに洋書が並べられている。

更に、敢えて空けられたスペースには可愛らしい動物の置物や、写真立てが絶妙なセンスで並べられていた。

大きな木の振り子時計が、穏やかな時を刻む。

全体的に物が多くて下手をすれば纏まりのなくなってしまうであろう空間も、マダムと一緒でどこか品のある空間へと仕上げられていた。

その中でも何より一番、私の目を引いたのは───



「テラス席まであるんですね……!」



一面ガラス張りの窓の向こうにある、テラス席。

高台に建てられた家に造られたそれは、まるで空に浮かんでいるように見え、正にここは " 風の隠れ家 " だと思った。