「でも、本当に素敵な人じゃない。蘭が間違えた時はきちんと叱ってくれて、それ以外でも、ちゃんと蘭のことを見ていてくれるんだもん」
向かいに座り、ココアの入ったマグカップを両手で包みながら、お姉ちゃんが嬉しそうに笑った。
普段アクセサリーを身につけないお姉ちゃんの左手薬指にはシルバーのリングが光っていて、それは近々、彼女が結婚することを意味している。
改めて見渡してみると、私の周りは結婚ラッシュというか幸せな女子で溢れているのだ。
その波にようやく乗れそうかもしれないと言っていいのか……ううん、私はやっぱり乗り遅れ気味だろう。
「素敵な人……では、あるけど。でも、時々すごく意地悪だよ」
「ふふっ、でも、優しくて頼りがいのある人なのよね」
お姉ちゃんには、何もかもお見通しらしい。
なんとなく照れくさくなってマグカップに口を付ければ、心地の良い苦味が口いっぱいに広がった。
「それで、せっかくのお休みなのに、今日は彼とは会わないの?」
「……うん。まだ、私の方の仕事が片付いてないし」
不破さんとの話を、恥ずかしい部分は省きながら一通りお姉ちゃんへと報告した私は、このあとのことを考えて眉根を寄せた。
自分のミスに気付き、辰野さんからチャンスを貰ってから今日で4日目。
来週の月曜日には、辰野さんに新しいカフェのネームとロゴ案を提示したいと思っている。
それなのに……どうしても、" コレ " というものが浮かんでこないのだ。
いくつか案は出してロゴデザインもしてみたものの、自信を持って押せるようなものはできていない。