「なんだか、すごく素敵な彼だね」



祝日休みの金曜日。1LDKの部屋には、シフォンケーキの甘い匂いがほんのりと漂っている。

柔らかな印象を与えてくれる木目調のテーブルに、淹れたてのコーヒーと共に置かれたそれを、私は遠慮なく掬って頬張った。



「……彼、っていうか、上司だけど」

「ふふっ。それを言うなら " 上司だけど、彼 " 、でしょう?」



久しぶりに会う、一つ年上の姉である杏(あん)。

料理が得意な彼女特性のシフォンケーキは、チーズケーキと並んで私の大好物だ。

彼女が動くたびに、ふわふわと揺れる栗色の髪。

お姉ちゃんが笑うだけで、空気が春のような温かさに包まれて、幸せをそのまま形にしたような人だと会うたびに思う。

……なんて、自分の姉のことをこんな風に褒めるのも変な話かもしれないけれど。

料理上手で気遣い上手。その上、誰にでも別け隔てなく優しくて、思いやりのある清楚で謙虚な大人の女性。

私とはまるで違った " 女らしさ " をこれでもかというほど持ち合わせている姉のことが、私は時々羨ましいなと思ってしまう。