「ここなら、少しは気分を変えて話せるかなと思ったんです。日下部さん、少しナーバスな様子だったので」
けれど辰野さんは、そう言って優しく微笑んだあと、図星をつかれて眉を下げた私を見て今度は困ったように笑った。
その笑顔を見たら再び胸には申し訳なさが広がって、視線は自然とテーブルへと落ちていく。
……そうか、辰野さんは私の様子が変だと思ったから、わざわざここに連れてきてくれたんだ。
お互いの社内の人間が誰もいない場所。
確かにこの場所でなら、誰にも邪魔されず、頭の中で伝えたいことを整理しながら話せるかもしれない。
それに、あのままカジタ商事の受付前で頭を下げたら、酷く目立ってしまっていただろう。
カジタ社員の人たちに見られたら、何があったのかと変な噂になっていたかもしれない。
というか、そもそも、クライアントにこんな風に気を遣わせてしまっている時点で問題外なのだけれど。
「あの、私…………」
耳当たりの良いジャズのBGM。時折聞こえる食器のぶつかる音と、店内に漂うコーヒーの香り。
それら全てを全身で感じれば、少しだけ緊張も解れる気がした。
ゆっくりと息を吐く。そうすれば自然と肩から力が抜けて前を向ける。
今なら。今なら自分の失態も何もかもを包み隠さず、辰野さんへと伝えられる。
伝えなければいけないことを、誠心誠意、言葉にしなければいけない。



