「お前も、やっと " らしく " なってきたな」
突然の言葉に弾かれたように顔を上げれば、相変わらず前を向いたままの不破さんがいた。
けれど、前を向く目は優しさを滲ませていて、誇らしげに弧を描いた唇を見た瞬間、今度こそ、泣きたくなった。
「きょ、今日は、なんなんですか、ホントに……」
「何が」
「人のこと酔っ払いだって言ってみたり、子供みたいに笑ったり、急に褒め出したり、突然、キスしたり……」
涙が零れ落ちないように、誤魔化すための予防線を張り巡らせる。
こんなところで、こんな当然の仕事を褒められたくらいで泣いていたら、自分はまだまだ半人前だ。
「キス、ねぇ……」
「ふ、不破さんは、からかってるつもりかもしれませんけど! さすがに、キスはセクハラですからね、セクハラ! セクシャルハラスメント!」
「それは、同意がない場合だろ。っていうか、同意がなかったら、セクハラどころの騒ぎじゃないけどな」
「そ、それはそうですけど! でも、わかってるなら、どうしてオフィスで、あんなことしたんですか!? いきなりキスするなんて、あんなこと─── !!」
けれど、必死に張った予防線ともなる言葉は、言い切るより先に不破さんの唇によって掻き消された。
私が座る助手席に身を乗り出し、覗き込むようにして唇に唇を重ねてきた不破さん。
思わず身体を後ろに引こうとすれば、片手が後頭部に廻されて逃げることは叶わない。
その間に頭の中が真っ白になって、あっという間に何も考えられなくなる。



