牧田先輩は桐島課長のどこを最低とみなしているんだろう。

大きなお盆に乗せられた牧田先輩が頼まなかったB定食を注文し、空いていた近くの席に座ってご飯を食べる。

そういえばこの中に染谷さんがいるんだっけな、と思い、見渡すと窓際で同期らしい男子たちとテーブルを囲み和んでいた。

わたしもあれぐらい自然に男子と話ができたらここまで苦労しなかったのにな、と定食のアジフライを食べながら思う。

食べ終え、会議室のある階の非常階段の扉へと向かった。

今日も桐島課長はのんびり過ごしているんだろうかとドキドキしたけれど、金曜日の件がまだ頭の中でくすぶっているので、どう接していいかわからない。

やっぱり社会人スキルの平然を装う仮面を装着して桐島課長に話しかけるしかないか。

非常階段の扉の前で一呼吸整え、扉を開く。

どんよりとした曇り空が目の前に広がり、案の定、上の階に続く階段に足を投げ出すように桐島課長が座っていた。

「お疲れ様です」

「お疲れ」

軽くあいさつをかわし、コンクリート製の欄干に両腕をついてぼんやりと外の景色を眺める。

時折風が吹くけれど湿気ていてそれほど涼しく感じられなかった。

さすがに黙ったままじゃこの平穏な場所の空気が澱みそうになるので話しかけた。

「金曜日はありがとうございました……」

「楽しかったよ」

そう桐島課長がつぶやく。心なしか声色が小さいような気がした。