ベタ恋!〜恋の王道、ご教授願います〜

「うらやましいって、そんなことは」

「僕もちょくちょくここへ来させてもらうよ」

「桐島課長……」

ここの専有権を主張できる人間ではないので拒否する権限もない。

それより、ここよりもっといい場所があると思うのに、どうしてここを選ぶかな。

せっかくのひとりの時間を上司と付き合うことになるだなんて。

「今、嫌そうな顔したな」

「え、そ、そうですか。あはは」

ごまかして笑わないと。面倒だけど、誠心誠意、ここは大人の対応っていうものだ。

「僕に合う女性はたいていそうやって困ったように顔を歪ませるから」

と、どこかで聞いたフレーズを桐島課長はつぶやいていた。

やわらかな風が穏やかに流れ込む。

非常階段からのぞむ景色は冬のあの寒々しい景色とは違って、工場を取り囲むように植え込まれた桜の花が満開になり、鮮やかなピンク色に囲まれていた。

桐島課長はその景色を愛おしそうに優しい目つきをして見つめている。

この時間が長く続けばいいと思った。

「星野くんがこの場所を気に入るだけあるな」

気がつけば、わたしのほうに顔を向けていた。

下手な冗談は言わないでほしい。

女性の誰にでもそういうおべっかはつくんだろう。

「会社の中でも自慢の場所かもしれませんね」

と、軽くかわしてみた。

すると、桐島課長はくすっとかわいらしく笑っていた。

「気分転換もすんだし、そろそろ仕事だな。それじゃ」

そういって桐島課長は立ち上がり、わたしの横を通り過ぎて非常階段のドアを開け、中へと入っていった。

きゅ、っと胸を締め付けられる気持ちになった。

今まではずっとひとりでこの非常階段のスペースを独り占めしてきたのに、いざひとりになった途端、急に寂しくなるなんて。

単純、馬鹿げてる。

はあ、と強いため息をもらし、わたしも非常階段のドアを開け、総務課へ戻った。