ベタ恋!〜恋の王道、ご教授願います〜

わたしとしてはとくに何も変わらない4月に突入したわけだけど、一歩外へ出ると真新しいスーツや制服をみると、新年度に入ったんだなあ、と思いながらも自分が新人だった思い出を振り返ることもなく、昨日の引き続きの仕事を取り組んでいくだけか、と思いながら制服へと着替えをすませる。

着替えを済ませて移動すると、窓の外では真新しいスーツに身を包んだ新入社員のひとたちが工場内の講堂で行われる入社式へ出席するべく足並みをそろえ向かっていっている姿がみられた。

わたしの所属する総務課は新人は入らない。かわりに新しい課長がやってくるので今までいた課長の荷物を財務課へ運んだりして片付けを行っていた。

「あの」

荷物を運び終え、階段を降りようとしたとき、うえから声がした。

黒髪をオールバックで固め、細長い四角い銀色のフレームのメガネをかけていた。

細身の黒いスーツに紺のネクタイを締めている。

背が高く、整えられているのは髪の毛、スーツだけでなく、目鼻立ちも整い美しかった。

「総務課はどこか知ってる?」

男性のやさしく低い声がわたしの心にすっと響く。

「えっと、わたしの所属する課ですけど」

「案内、頼めないかな」

「は、はい」

わたしの答えにその人はニコッと笑顔で返してくれた。

とくに話すこともないし、とにかく総務課に連れていけばどうにかなると思いつつ、やっぱり何か話そうかなと思ったらもう総務課のドアの前についてしまった。

「こちらです」

「ありがとう」

やさしく響く声とともに笑顔で返してくれて、先にそのひとが入ってからしばしドアの前で固まったしまったわたしだった。