ベタ恋!〜恋の王道、ご教授願います〜

「桐島課長、これだと資料が」

ゆっくりとこちらに靴音が近づいてくる。

急に怖くなり、靴音を避けて奥にある書庫の中央にある大きなテーブルへたどり着く。

わたしの後を追い、薄暗い部屋の中の桐島課長の顔は会社のときの顔とはうってかわって笑みは消え、メガネの奥の瞳の動向はとらえることができない。

テーブルの前で立ち止まると、桐島課長は書棚と書棚の間の通路で立ち止まった。

「もう就業時間だってわかってるはずだよね」

いつもより指示する声は会社で接する時のように落ち着きを払ってはいるものの、なぜか体の芯に響くような気がした。

「……残業ですか、これは」

「そう捉えてもらっても構わないよ」

桐島課長は穏やかに話すと、ごまかすように両端の口角をあげている。

はじめてみる桐島課長の行動に部屋の中は熱がこもっているのにもかかわらず、背筋が寒くなった。

「じゃ、じゃあ明かり、つけましょうよ。これじゃ見えない」

「聞きたいことがあるんだが、それに答えたらね」

「……はい」

「生産機械設備課の二階堂くんとはどういう関係なの?」

「どういう関係っていっても、本当に何も関係ありませんけど」

「関係ないっていって、けっこう親しげだけどね」

「向こうが勝手に」

「そうやっていうの、ずるいよね」

「ずるいって……」

ずるいってどういうことなの?

わたしは星彦さんに対して何の感情もないのに。

「だから星彦さんとはなにも」

「……下の名前で呼ぶなんて、親しいんだな」

桐島課長の言葉に、わたしは口を両手で押さえる。

しまった。

月彦さんと区別するために呼んでいたのが口からぽろっと出てしまった。

「こ、これには事情がありまして」

「いろんな嘘をついてきたけど、そろそろ正直にならないといけない時期になったのかな」