「お騒がせしました」

右隣に立つ桐島課長に謝った。

「マニュアルで何か非があるかな、と思ってね」

「毎年、何かしら追加と変更があるのは知っていたんで。昨年は何回か呼び出しされて工場棟へいっていたんですが、生産機械設備課の人が直接くるのは珍しいんで、ちょっとびっくりしてしまいました」

「そうなんだ。あとで大崎に確認してみる」

軽く頭を下げて自分の席に向かおうとすると、やっぱり染谷さんが目をらんらんと輝かせながらわたしが席に近づくのを待って声をかけてきた。

「やっぱりあの彼って星野センパイの?」

「だから似てる人だって」

「ホントすごく似てますよねー。めっちゃかっこいいじゃないですかー」

染谷さんの黄色い声が部屋中に響く。

男性社員たちはそれを聞きつけて可愛らしいと思ったのか、ニコニコと笑い合っている。

「って、そんなことで盛り上がらないでよ。ちょっと声大きいって。仕事に戻るから」

と、染谷さんはまだ話し足りないらしく、気になりますよねー、あのイケメンと付け加えている。

「工場棟の人が来たんでしょ。で、なんだったの?」

ほら、牧田先輩が気になってやってきちゃったじゃない。

腕を組みながらわたしと染谷さんを少し睨むようにしながら交互にみていた。

「マニュアルの直しだと思うんですが」

「そう。ずいぶん和やかだったわね」

「……お騒がせして申し訳ありませんでした」

染谷さんは知らんぷりしながら自分の席に座りなおしてすました顔をしてパソコン入力をしはじめている。

「マニュアル校正箇所出たんでしょ。まとめるから貸して」

「はい……」

星彦さんからもらったマニュアルの束を差し出すと牧田先輩は奪うように強く掴んで席に戻っていった。