「実はね、大崎と俺は同期なんだ」

「奈々実ちゃんに黙ってたのか。秘密にする必要なんかないのに」

大崎さんははす向かいに座る桐島課長を気の抜けた顔つきでみている。

桐島課長はわたしに申し訳なさそうにちらりとこちらをみてから、

「言いそびれてしまってね。こっちに異動になったとき、あんまり挨拶できなかったから」

と頭をかいていた。

「新マニュアルのついでか。総一郎の相手する時間なんてなかったからな」

「それはお互いさまだ、龍也」

そういって二人とも和みまくっている。

「……そうなると、牧田先輩も」

「まあそんな感じかな」

と、大崎さんはそういって前のめりになりながら、軽く頷いていた。

桐島課長は牧田先輩の名前を出しても動じていなかったのは少し不思議に思えた。

「しっかし、相変わらず奈々実ちゃんはかわいいね。うちの課に異動すればいいのに」

「ちょ、ちょっと大崎さん」

「奈々実ちゃん、本当毎年頑張ってくれてねえ。工場のみんなも密かに応援してる女子社員のひとり。もちろん僕は断然、奈々実ちゃん推しだけど」

「だから大崎さんてば」

「そっか。じゃあ、生産機械設備課だけは異動させないようにしないとな」

桐島課長はすねているのか、大崎さんに向かってはっきりと話すと、冗談通用しないんだよ、総一郎はと、大崎さんは苦笑いを浮かべている。

「あ、そうだ。新しいシステムの構築をしにエンジニアが入ったんだっけ。挨拶しろよ、総務の奈々実ちゃんに」

大崎さんと同じようにクリーム色の作業着の上着姿の男性が近づいてきた。

背は大崎さん、桐島課長と同じぐらいの高さだろうか。

近づくその姿にわたしは目を奪われてしまった。

それよりももっと胸ぐらをつかまれた、そんな表現をしたほうが確実だろうか。