ベタ恋!〜恋の王道、ご教授願います〜

「着いたよ。降りよう」

電車が停車し、終点を告げるアナウンスが聞こえる。

桐島課長はわたしの頭の上から声をかけてくれた。

乗車の30分間が嘘みたいに早く感じられた。

わたしや桐島課長、多くの客を吐き出した列車は折り返し運転で次の客を乗せてターミナル駅方面へと列車を走らせていく。

駅を降り、わたしと桐島課長は同じ方向へと足を進めていく。

昼間の暑さがこもっているのか、まだ空気が熱い。

じんわりと汗ばむ体をよそに桐島課長と並んで歩く。

少し広い通りに出てかろうじて涼しい風に当たることができた。

「そういえば、二階堂重彦の本のなかに、『白紙の本のなかに自分の物語を埋めていく』っていうフレーズがあったね」

「それは確か、不思議な恋愛話でしたよね」

わたしが読んでいた少女小説の本とは別の小説だった。

よくある青春ものの話のなかのキーポイントとなる一節だった。

「星野くんは自分という本のなかにどんな物語を持ってるんだろう」

「たいした話はないですよ。他の女子とは違ってつまらない話がいっぱいつまっている」

「さっきの男の話も含まれてるんだろうね」

「……そうですけど、あのひとのことはページごと削除したいですよ」

それを聞いて桐島課長は思い出したのか、ふっと、声をあげて笑った。

「俺もいらない物語の部分は破って捨てたいかな」

そういってわたしの顔をちらりとみながらともに家路へと急いだ。