「はっはっは、息子に泣いている姿を見せるなんて格好悪いな」

しばらくたってから親父はそう言った。

「本当にありがとうな、柳也」

「まだ、親父を認めたわけじゃ」

「わかってるよ」


・・
・・・

しばしの沈黙のあと、

「そういえば・・・咲麗のところの梨乃ちゃんとはまだ仲良くしているのか?」

親父の何気ない会話。

「ぁぁ」

「そうかそうか」

うんうん、と楽しそうにうなずく。

親父は昔からそうだった。

梨乃の話をするときはやけに楽しそうだった。

「もう、柳也と梨乃ちゃんは付き合っていたりするのか?」

確か、昔からやけに親父は梨乃と俺をくっつけたがっていたな。

迷惑な話だ。

「いや、付き合ってなんかいない、今でも幼馴染の腐れ縁てやつだ」

そうか、と少し残念そうにつぶやく。

「梨乃ちゃんは良い子だぞ、そろそろ柳也も彼女というものを」

考えたほうが、という台詞をさえぎり俺は、

「親父の言う梨乃ってのは何年前の梨乃の話だよ」

と言ってやった。

「梨乃ちゃんは変わってしまったのか?」

いや、まったく変わってないと言えば変わってない。

泣き虫でおせっかいなところとかは全然変わってない。

「否定しないってことは肯定ととっていいのかな?」

「・・あぁ」

「だったら良いお嫁さんになるんじゃないか?」

「親父、ひょっとてして今でも親父が梨乃と一緒にいたいからという理由で、俺と梨乃をくっつけたっがっていないか?」

「・・・・・・・・いや、それはない」

今の沈黙は何だ?

図星か?

昔、まだ親父が家にいたころ梨乃が家に遊びに来ることがたくさんあった。

その時も親父が出てきて、

「梨乃ちゃんは可愛いね」

とか、

「僕も母さんがいなければ梨乃ちゃんをお嫁にもらってあげるのに・・・」

とかマジなのか冗談なのかわからないことをいつも言っていた。

梨乃の方は梨乃の方で、可愛いと言われれば顔が赤面したり、お嫁にもらってあげると言われれば大慌てで、
「おじさんにはおばさんがいて・・、その・・あの・・ぁゎゎ」

と全力で誘いを断ったり。

その度に親父は、

「はっはっは」

と楽しそうに笑っていた。

その数分後にはよく母さんが登場して、

「お父さんには私がいるのに梨乃ちゃんに浮気するんですか!」

こっちも冗談なんだか本気なんだかわからない勢いで親父を奥の方の部屋(説教部屋)へ連れて行くことがほぼ日常だった。

その都度梨乃は、

「おじさん、大丈夫かなぁ?」

と本気で心配してたっけ。

・・・懐かしいな。

「俺は、梨乃とは付き合う予定はない」

そう親父に告げた。

なんで?と当然の疑問を浮かべる親父に俺は言う。

「俺には付き合っているやつがいるからな」

「梨乃ちゃんじゃないのか?」

あぁ、とうなずく。さすがの親父も驚いていた。

「じゃあ梨乃ちゃんはどうしてる?梨乃ちゃんはその子のことどう思ってるんだ?」

「梨乃も俺とのことは認めている。それに梨乃とは今までどおりやっている」

若干、今までどおりとはいかない部分はあるがたいていは今までどおりだ。

「そうか」

その後はっはっはと笑いながら、

「それでは梨乃ちゃんと一緒に暮らすわくわくライフはもう叶わないのかぁ。いやぁ残念、残念」

残念そうにではなく、楽しそうにつぶやいた後、

「柳也、今の生活は楽しいか?」

と聞いてきた。

「・・・まぁな」

楽しいかと聞かれて楽しいと言うのはなんか癪だった。

相手が親父だからな。

親父はそれを見透かしたようにはっはっは笑いながら、

「そっかそっか」

とつぶやいた。