~side 柳也~
4月19日
放課後の教室。

一昨日の放課後、柚明に言われたとおりに俺は杏に転校することを告げた。

杏の反応は驚くほど淡白だった。

正直もっと驚くと思ってた。

さすがに俺が転校すると告げた時にはかなり驚いたみたいだったが、理由やらを話している最中は、

「そう・・・へぇ・・・」

と簡単な相づちだけ。

俺が話し終わると一言、

「そう・・・良かったじゃない」

と笑って呟いた。

本当はもっと驚くと思ってた。

もっと悲しんでくれると思ってた。

だって杏は俺の彼女なんだから行かないでの一言くらいあると思ってた。

だけど杏の反応は違っていた。

「ちょっと柳也、何暗い顔してるの?別に外国へ行くとか行ったら2度と帰って来れない場所なんかじゃないんでしょ?」

「だったらまた会えるじゃない、京都でしょ?近いじゃん」

「それにさ、大学こっち来ればまた遊べるじゃん?」

「だからそんなにしょげることなんてないんじゃない?」

杏は終始にこやかだった。

その笑顔は俺に気を使っている笑顔なのか、それともこんな俺などいなくなって清々したという笑顔なのか、
願わくば前者であって欲しい。

だけど俺は杏に彼氏らしいこと何かしてあげたっけ?

正直何もしてあげられなかった気がする。

そういえば梨乃の奴がよく言っていたっけ?

「彼氏さんは彼女さんに優しくするもんなの!」って。

俺は杏に優しかったのだろうか?

夜の電話をスルーしたりお昼を誘わなかった俺だったけど、この杏の笑顔は俺なんかいなくなって清々したという笑顔でないことを願おう。



・・
・・・

「ねぇ、転校のことは梨乃には話したの?」

ふいに、杏は梨乃のことを話題に出してきた。

「いや、まだだけど」

「もちろん、転校のこと話すんだよね?」

「あぁ」

その言葉に杏は一言、

「・・・そう」

とだけ呟いた。

杏の横顔はどこか不安そうで、何かを心配しているそんな横顔だった。